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働き方

流産等に関する職場の法制度と健康保険について

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

前回のエントリでは、出産育児一時金の改正について取り上げましたが、別の視点から、出産に関してお伝えしておきたい大事なことがあります。

妊娠・出産については、どんなに努力を尽くされたとしても、時として流産・死産をされてしまうケースがあります。ご本人やご家族にとって、どれほど深い悲しみか…心情を察するに余りあります。

社会保険労務士の立場から、流産等に関して労務管理上の配慮や健康保険などについて横断的な情報が少ないと感じたので、このブログで取り上げたいと思います。

(注)健康保険に関しては、主として協会けんぽ(全国健康保険協会)に被保険者として働く女性を想定して書いています(健康保険組合に加入の場合は読み替えてください)。

「流産」とは、妊娠22週未満で妊娠が終わってしまうことをいいます。
「死産」は妊娠22週0日以降に、赤ちゃんが亡くなった状態で出産になることをいいます。

労働基準法の解釈

通達において、「出産」とは、妊娠4か月(1か月は28日のため85日)以上の分娩とし、生産のみならず死産(人工妊娠中絶を含む)をも含むものとされています(昭23.12.23 基発1885)。

妊娠4か月以上の方が流産・死産をされた場合、労働基準法上の「産後休業」が適用されます。

使用者は、産後8週間を経過しない女性の就業が禁じられており、これを産後休業といいます。正社員に限らず、パートタイマーや契約社員、派遣社員など雇用形態に関わりなくすべての女性労働者が対象です。

なお、産後6週間を経過した女性が請求した場合は、医師が支障ないと認めた業務について働くことは差しつかえありません。

  使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

労働基準法第65条2項

産後休業をすることができるのは、法律上は妊娠した本人となるため、パートナーが取得することできません。しかし、精神面において苦しい状況にあることには変わりありません。有給休暇等を使って休むという選択も、大事なことだと思います。

流産・死産という大きな出来事は、精神面において大きく響くことは無論、体調面においても出血が続く場合等もあることから、十分に休養を取ることが大切です。

労働基準法上の産後休業は、使用者の義務でもありますので、遠慮せず仕事を休んでください。

なお、労働基準法における母性保護規定には使用者に罰則が設けられており、違反した者は6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることが規定されています(労働基準法第119条)。

【年次有給休暇の出勤率算定について】

年次有給休暇の発生要件としての8割以上の出勤率の算定に当たっては、産前産後の女性が第65条の規定(産前産後休業)によって休業した期間は、出勤したものとみなさなければなりません。

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

男女雇用機会均等法では、母性健康管理に関する措置が規定されています。

流産・死産後1年以内の女性労働者は、母性健康管理措置の対象となります(妊娠の週数は問いません)。

母性健康管理指導事項連絡カード(通称、「母健連絡カード」)は流産等にも使用できます。女性労働者から「母健連絡カード」が提出された場合、事業主は記載内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。

流産・死産した女性の心身には大きな負担と変化があります。企業においては、医師の指導等を受けた際はそれに対応することはもちろん、体調面やメンタル面の回復のため必要な対応を行っていただきたいと思います。

なお、男女雇用機会均等法第9条3項では、「事業主は、女性労働者が妊娠・出産・産前産後休業の取得、妊娠中の時差通勤など男女雇用機会均等法による母性健康管理措置や深夜業免除など労働基準法による母性保護措置を受けたことなどを理由として、解雇その他不利益取扱いをしてはならない」と規定されています。

【不利益な取り扱いと考えられる例】

○ 解雇すること

○ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと

○ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること

○ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと

○ 降格させること

○ 就業環境を害すること

○ 不利益な自宅待機を命ずること

○ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと

○ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと

○ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

休職制度の活用と健康保険の「傷病手当金」

妊娠4か月未満の流産のため、産後休業が適用されない場合もあるかもしれません。あるいは、産後8週間を過ぎても心身共に優れず、働くことが難しい状態が続くことも考えられます。

主治医にご相談のうえ、療養が必要な場合は診断書や母健連絡カードを作成してもらい、勤務先にご相談ください。

会社に休職制度がある場合は、就業規則に休職理由や期間などが規定されているはずです。休職制度に関しては、法律上の規定はなく、あくまでも会社独自の制度になります。

一般的に、休職期間中は給与が支給されないことが多いため、もし無給となる場合は、健康保険から「傷病手当金」を申請することも検討ください。医師及び事業主から労務不能の証明があれば、基本的に申請可能と言えます。

傷病手当金の支給要件

(1)業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

(2)仕事に就くことができないこと

(3)連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

ただし、休んだ期間について会社から傷病手当金の額より多い給与を受けた場合には、傷病手当金は支給されません。

1日当たりの支給額は、【支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)となり、大体の目安でいうと過去1年間の平均標準報酬月額の67%程度となります。

傷病手当金の申請については、会社にご相談ください。

「出産育児一時金」について

健康保険でいう「出産」とは、妊娠85日(4か月)以後の生産(早産)、死産(流産)、人工妊娠中絶を指します。

妊娠85日以上で流産等をされた場合、「出産育児一時金」を申請することができます。2023年4月1日以後は、一児につき48万8千円と金額が改正されています。※妊娠22週未満または産科医療保障制度に未加入の医療機関等の場合。妊娠22週以降は50万円。

出産育児一時金の支給申請書については、子の氏名を記載する欄がありました。

しかし、2022年6月14日に厚労省から健康保険組合宛に「出産育児一時金等の支給申請における留意点について」が発出され、死産児のご遺族に配慮する観点から氏名の記載を求めないよう対応をすることが示されています。

これを受けて、協会けんぽにおいては、2023年1月から「出産児の氏名」記載欄が削除されました。

※協会けんぽの「出産育児一時金」申請様式はこちらからダウンロードできます(協会けんぽホームページにリンク)

健康保険の「出産手当金」について

妊娠4か月(85日)以上で流産等をされた場合、産後休業が適用される旨について上述しましたが、産後休業期間は健康保険から「出産手当金」を申請することができます。

出産手当金は、健康保険の被保険者が出産のため会社を休み、事業主から報酬が受けられないときに支給されるもので、給与が支給されている場合でも出産手当金の日額より少ない場合は、出産手当金と給与の差額が支給されます。

1日当たりの支給額は、【支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)となり、大体の目安でいうと過去1年間の平均標準報酬月額の67%程度となります。

申請に際しては、医師及び事業主の証明が必要になります。

なお、健康保険給付を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日(消滅時効の起算日)から2年で時効になります。出産手当金の消滅時効の起算日は、出産のため労務に服さなかった日ごとにその翌日となります。

※協会けんぽの「出産手当金」申請様式はこちらからダウンロードできます(協会けんぽホームページにリンク)

詳しくは加入する協会けんぽ(または健康保険組合)にご確認ください。

社会保険料の免除について

健康保険に加入している被保険者で妊娠4か月(85日)以上で流産・死産をした場合、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)産後56日のうち、出産を理由として労務に従事しなかった期間について、健康保険・厚生年金保険の保険料(=社会保険料)が被保険者・事業主両方の負担が免除されます。

社会保険料の免除に関しては、産前産後休業開始月から終了予定日の翌日の属する月の前月(産後休業終了日が月の末日の場合は産後休業終了月)までが対象です。

申出書の提出にあたり、休業期間中における給与が有給・無給であるかは問いません。免除期間中も被保険者資格に変更はなく、将来、年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。

申出書の提出は、産後休業をしている間または産後休業終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に行う必要があるのでご注意ください。※この届出は、基本的に会社が行うものです。

さいごに

大変センシティブなテーマですが、大事なことだと思ったので、敢えて取り上げました。

こうした問題に直面したとき、精神的にも厳しい状況において、職場に対してどう支援を求めたらいいのかわからない、という方は少なくないだろうと思います。そもそも職場に伝えたくない、言い出せない……という方もいらっしゃるでしょう。

しばらく時間が経ってからご報告を受けることもあり、私自身、もっとできることがあったのでは、と考えることがありました。

労務管理に携わる人と医療従事者がうまく連携できれば、もっとよいバックアップ体制が築けるのではないかとも考えます。

授かった命の重みは同じでありながら、法律上においては「出産」の定義や取り扱いが異なる場合があります。母性健康管理措置は、流産・死産後1年以内の女性労働者に、妊娠週数にかかわらず受けられることは、ぜひ覚えておいてください。

企業側においては、心身ともに大きな負担を受けた従業員が十分休養が取れるようできる限り配慮をし、職場復帰に向けた支援を惜しみなく行っていただけることを願います。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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