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女性が働きやすい中小企業に転職するには?

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

あなたは今、転職しようかどうか迷っていますか? あるいは、漠然とこれからのキャリアについて考えることはありませんか?

もし転職をするなら、「女性がイキイキと働いている職場」「女性にとって働きやすい職場」がいいと思いますよね?

そうした中小企業に関心がある方には、経営者の企業観に着目してみることをおすすめします。

転職先に中小企業の選択肢も

就職・転職するとき、大企業を希望する人は多いものです。

給与等の待遇面、安定した雇用、福利厚生、学習機会、キャリア形成のチャンス……これらは確かに充実しています。

特に、日本では新卒時における就職先が、その後のキャリアに大きな影響を与えます。そのため、就活時に大企業へ正社員として就職を目指すことは、合理性のある選択だったと言えます。

しかし、大企業に入社できたとしても、人生安泰という時代は過ぎ去りました。

私たちの平均寿命の方が遥かに長くなり、人生100年時代で働く期間も長期化する中、今後は転職したり、働き方そのものを見直したりすることは、もっと自然なことになっていくはずです。

そのとき、中小企業への転職という選択肢も、視野に入れて欲しいと思います。

日本は、企業全体のうち、個人事業主を含む中小企業が99.7%と圧倒的な割合を占め、従業員数でみても、中小企業で働く人が全体の7割弱を占めています。

候補先として視野に入れてもらいたい理由は、決して中小企業の数が多いからだけではありません。

ひと口に中小企業と言っても千差万別。企業選びは慎重にしたいところですが、女性にとっては、中小企業で働くことで、活躍できるチャンスが広がるかもしれません。

どのような中小企業であれば、女性がイキイキと働くチャンスが広がるのでしょうか。

中小企業は女性管理職の割合が高い傾向に

私自身は、社会保険労務士として、中小・ベンチャー企業の人事労務管理に長年携わってきました。

リモートワークやフレックスタイム制、週休3日制の導入など、ワークライフバランスに配慮し、柔軟で多様な働き方を可能とするために雇用環境の整備を進めている中小・ベンチャー企業は多数あります。

また、給与水準においても、大企業に引けを取らない高待遇を提示している中小企業もあります。

そうした企業の中には、女性の管理職を積極的に登用することも珍しくありません。

決して「女性だから下駄を履かせる」という姿勢ではなく、また女性活躍推進法への対応ということでもなく、貴重な人的リソースとして認められ、女性が活躍しているのです。

実際、中小企業では女性管理職比率が大企業と比べても高い傾向にあります。

以下は厚生労働省の調査で、女性管理職の割合を規模別で示したものです。部長、課長、係長相当職、役員をみても、いずれも10~29人規模が高いことがわかります。役員や部長相当職は顕著で、30~99人規模も女性管理職が高い比率となっています。

規模別役職別女性管理職割合

出所:厚生労働省「雇用均等調査」(令和3年度)

一方、中小企業であっても、女性が活躍しているとは言い難い企業があることも事実です。

いったいなぜこうした違いが生じるのか。問題意識を持ちつつ、中小企業経営者と接する中で、女性が活躍できるか否かに関しては、経営者が大きなカギを握っているのではないかと考えるようになりました。

女性の人材活用に限定した調査研究から

中小企業における人事管理の特徴について、女性の人材活用に限定して調査研究を以前に行ったことがあります。以下、その考察について簡単に要旨をシェアします。

出所:「経営者の企業観及び行動特性と人事管理の関連性について~中小企業における女性活躍推進の考察」(佐佐木 2018)

女性活用に関する人事管理は、これまでの先行研究から、以下の4類型に分類されます。

出所:筆者作成

しかし、なぜこのように類型化されるのかを明らかにした調査研究はありませんでした。そこで、経営者の「企業観」と「行動特性」の両者が、女性活躍に関する人事管理の在り方を規定していると考え、作業仮説を立て分析を行いました。

企業観とは?

「企業観」とは、継続的に経済活動を営む組織体としての物の見方や考え方を指します。研究では2つの理念系に分類しました。

一つは、経営において重視する要素として、売上・利益の拡大や企業規模の拡大・成長、企業の存続、企業知名度の向上、キャッシュフロー等を重視する「目標管理型」です。

もう一方は、顧客、従業員の満足度や、従業員の雇用維持、取引先との共栄・共存、社会への貢献等を重視する「関係維持型」です。

行動特性とは?

経営者の行動特性については、リーダーシップに関して、ガーズマ・ダントニオ(2013)が提唱する「女神型リーダーシップ」に関する研究を活用しました。彼らは世界13か国の65,000人を対象に調査を行い、125の資質を「男性的」「女性的」「どちらでもない」に分類し、リーダーシップに関する研究を行っています。

この研究では、決断力、分析力、目的意識や逆境に強いといった「男性的」な資質と、柔軟性、謙虚、直観的、共感力といった「女性的」な資質の2つを理念型として、「男性的行動特性」又は「女性的行動特性」として分類しました。


そして、生まれもった性別ではなく、本人の行動特性が人事管理においてどのように影響を及ぼしているのかを、企業観と合わせて5段階評価でスコアを分析しました。

分析対象は、労働者数300人以下の中小企業経営者(上場・未上場問わず)で、業種はサービス業を中心に、製造業、不動産業、金融業等多岐に渡ります。

調査方法は、事前に質問紙調査票を配布し、その後半構造化インタビューを実施する方法で行いました。

研究では4つの作業仮説を立てましたが、ここでは割愛し、ざっくりと要点を述べると、

中小企業経営者の男性的又は女性的「行動特性」と人事管理の類型の間には関係は見られなかったが、経営者の企業観が「関係維持型」であれば、人事管理は「女性活躍推進型」になる傾向が明かとなった、ということです。

これを踏まえ、女性が自身の能力を発揮して活躍の場を求めるならば、中小企業に転職をする際に次の点に留意するとよいでしょう。

経営者の日頃からの言動に着目

女性が活躍している職場では、経営者の企業観が「関係維持型」の傾向にある。つまり、売上・利益や規模拡大といった結果を重視するよりも、従業員や顧客、取引先との関係性を重視し、プロセス思考の経営者のもとで女性が活躍しているということです。

企業である以上、利潤を追求するのは当然です。そのうえで、日頃から経営者がどういった言動をし、どのような企業観を大事にしているか、想像することはできるのではないでしょうか。

今はTwitterやInstagramなどSNSを利用する経営者はたくさんいます。なかには、日頃の言動と実はまったく違う価値観を持っていた・・・ということもあるかもしれませんが、日々何気なく発信している内容から、企業観を想像することは難くないでしょう。

気になる企業の経営者が情報発信しているのであれば、リアルな声を聞けるチャンスです。

企業観は、女性経営者の方が男性経営者と比べ「関係維持型」となる傾向が高い結果でしたが、男性経営者において、「関係維持型」と「目標管理型」の割合は半々でした。

まとめ

大企業や上場企業の場合、一般的に株主が株主総会によって取締役等を選任するため、いわゆる「所有」と「経営」が分離された経営形態が多いと言えます。

それに対して中小企業の場合は、「株主=経営者」であるオーナー経営企業の割合が高く、経営者が強力なリーダーシップを発揮して中長期的な経営を行っていることが多い傾向にあります。

今回は、私自身が様々な中小企業経営者とお会いして行った調査をもとにした考察についてご紹介しました。調査自体はコロナ前の時期で、企業経営に役立てる視点で行ったものですが、ここでは働き手として女性自身がどう考えるべきかという視点で書いています。

女性が働きやすい職場は、男性にとっても働きやすい職場であると思います。

個人的には、性別、年齢、障がい、国籍……そういった区分で語る必要がない組織、社会を心から願っています。それこそが多様性を認め合うということで、新たな可能性を引き出してくれるのではないでしょうか。いつか「女性の」という言葉を入れなくても、フラットに働き方について語れる日がきたらいいと思っています。

ただ、今のところ、大企業・男性正社員をロールモデルとして発展してきた日本型雇用システムから鑑みると、まったく同じ土俵で語ることが難しい実情があります。

そこで、ささやかな提案です。

転職先候補として中小企業を選定する際、経営者がどのような企業観を持っているか観察をしてみる。そんな視点も一つ採り入れてみてはいかがでしょうか。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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