定年前後の働き方大全100

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「定年」を外国人に説明するのが意外と難しい

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

日本の雇用制度について、外国籍の方に説明していたときのこと。「定年」の話になって、私は頭を抱えてしまいました。

定年を英語では、「mandatory retirement age」と言います。一定の年齢になると、強制的に労働契約が終了して退職することを意味しますが、今やそうとも言えなくなってきています。

たとえば、定年を60歳としている企業の場合。継続雇用制度によって、希望すれば65歳まで働くことができます。そして、多くは60歳でリアルに引退するわけではなく、引き続き働くことを選びます。

厚生労働省の調査によると、65歳定年企業は全体の18.4%に過ぎません。大企業に至っては11.9%です。そして、65歳までの雇用確保措置のある企業は99.9%にのぼります(出所:令和2年「高年齢者の雇用状況」より)。

そこで、「リタイアメントしたのに、なぜ働くの?」と聞かれてしまうわけです。もっともな質問でしょう。

高年齢者雇用安定法の考え方

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(通称「高年齢者雇用安定法」)では、事業主が定年を定める場合、60歳を下回ることができないと規定しています(第8条)。

一方、定年が65歳未満の場合、(1)定年の引き上げ、(2)65歳まで希望者全員を継続雇用する制度の導入、(3)定年の廃止、のいずれかを講じなければなりません(高年齢者雇用安定法 第9条)。これは2012年の改正によって全面的に義務化され、現在では広く定着しています。

上述の調査から雇用確保措置の内訳を見ると、「継続雇用制度の導入」(76.4%)が圧倒的に多く、次いで「定年の引き上げ」(20.9%)、「定年制の廃止」(2.7%)となっています。

定年の引き上げを進める企業は徐々に増えているものの、定年自体は65歳未満の企業が多く、継続雇用制度によって65歳まで働く雇用環境が用意されているということです。

こうした背景には、社会保障制度の見直しによる年金受給開始年齢の引き上げ(65歳)に伴う収入の確保の意味合いが大きく、労働力人口の減少によって高齢者が活躍できるために、労働市場の整備が進められてきたことがあります。

さらに、2021年4月から、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主は、65歳から70歳までの就業機会を確保するための措置を取ることが努力義務となりました(高年齢者雇用安定法 第10条の2)。

高齢層の働く機会を広げることは意義のあることです。一方で、こうした度重なる改正が、よりいっそう制度を複雑化させているとも言えます。

こうなってくると、「いったい日本人はいつまで働くのですか? さっぱりワカリマセン」と言われても不思議ではありません。

日本は世界でも例を見ない長寿国でありながら、なぜ定年がまかり通っているのか。しかも、60歳という定年年齢を引き上げることなく、複雑な法制度を設けているのでしょう?

これには、日本型雇用システムの成り立ちが大きく影響していると考えられます。

多くの大企業がいまだに定年を60歳としているのは、年功的に処遇されてきた高い給与を維持することが難しく、「定年」という合理的な理由を用いて、一旦リセットしたい意図があることは確かでしょう。

給与が大幅にダウンしても、それを補う仕組みがありました。もともと、65歳までの継続雇用は努力義務であったため、65歳までの継続雇用を促すための施策として、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」が活用されてきました。創設当初からは給付率は縮小されていますが、今なお多く活用されています。

メモ

高年齢雇用継続給付とは?

雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の方で、60歳以後の各月に支払われる賃金が、原則として60歳時点の賃金額の75%未満となった状態で雇用を継続する高年齢者に対し、65歳に達するまでの期間について、60歳以後の各月の賃金の最大15%を支給する制度。2025年7月1日から、新たに60歳となる労働者への同給付の給付率が最大で10%に縮小されることになっている。


「定年」という概念が、もはや形骸化していて、純粋に引退を意味する言葉ではなくなってきています。

それだけに、自分自身でゴールラインをどこに持っていくか、考えながら行動していくことがますます大事になっていきます。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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