社会保険とお金

コロナ後遺症と労災、傷病手当金について

社会保険とお金

新型コロナウイルス感染症に関する「傷病手当金」の取扱いについて、2022年8月9日 厚生労働省保険局保険課より通知のあった「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」の改訂内容を掲載しています。詳しくは下記をご覧ください。

新型コロナウイルスに感染後、後遺症とみられる症状に悩む人が増えています。

最初の症状は軽く、一度は仕事に復帰できた場合であっても、その後強い倦怠感が出てきて、立ち上がることもつらく、新型コロナ後遺症によって働けない状態になってしまう人もいます。

こうした症状は一見して分かりにくいために周囲への理解も進みにくいものです。現時点では根本的な治療法が確立されていないため、本人はとてもつらい想いを抱えていることと思います。

先日、新型コロナ後遺症によって仕事を辞めざるを得ない状況になったシングルマザーのニュースを見ました。詳しい状況が分からないのではっきりとしたことは言えませんが、「労災に該当するのでは?」と感じました。

もしかしたら、労災保険を申請できる人が、そうとは知らず(知らされず)退職に追い込まれているケースもあるかもしれません。

労災保険とは?

労働者災害補償保険(以下「労災保険」といいます)とは、業務上の事由または通勤による労働者のけがや病気、障害または死亡に対して、労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。

労災保険は、一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。

労災保険の対象となる「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」を言い、正社員ばかりでなく、契約社員や派遣社員、パートタイマーやアルバイトなど名称に関わらずすべての労働者が対象です。

法人の経営者や役員、個人事業主等は対象となりませんが、労働者でない場合でも、例外的に「特別加入」をしている場合は、対象となる場合があります。

新型コロナ感染で労災申請できるケースとは

新型コロナ感染による労災保険について、2021年9月30日までに1万8637件が請求され、1万4567件が支給決定を受けています。認定率は約8割。脳・心臓疾患の認定率は3割程度ですから、かなり高いことがわかります。

労災保険は、「業務災害」と「通勤災害」に大別できます。

新型コロナの感染の業務災害については、基本的に以下のとおりです。

●感染経路が業務によることが明らかな場合

●感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務※ に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合

※(例1)複数の感染者が確認された労働環境下での業務

※(例2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下の業務

●医師・看護師や介護の業務に従事される方々については、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として対象

業務に起因して新型コロナウイルスに感染した労働者は、労災認定を受けると以下のような保険給付が受けられます。

療養補償給付

①労災指定医療機関を受診すれば、原則として無料で治療を受けることができます。

②やむを得ず労災指定医療機関以外で治療を受けた場合、一度治療費を負担してもらい 後で労災請求をすることで、負担した費用の全額が支給されます。

休業補償給付

療養のために仕事を休み、賃金を受けていない場合、休業4日目から給付を受けることができます。

給付額:休業1日あたり給付基礎日額の8割(特別支給金2割含む)

*原則として「給付基礎日額」は発症日直前3か月分の賃金を暦日数で割ったものです

労災保険は事業を単位として成立しています。労災の申請等については、所属する職場を管轄する労働基準監督署が窓口となります。該当するかもしれないと思われる場合、まず職場に相談し、対応が難しそうな場合は、管轄の労基署に相談されることをおすすめします。

療養補償給付は傷病が治癒するまで受けられますが、療養開始後、1年6か月を経過しても治癒しておらず、障害の程度が重い場合には傷病補償年金を受けることができます。

なお、労働基準法では、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇を認めていません。この点は、使用者側も注意する必要があります。

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

労働基準法第19条1項

業務外の場合は健康保険の傷病手当金も

業務での起因が認められない場合、健康保険の「傷病手当金」を申請する方法があります。これは、協会けんぽなど職場を通じて健康保険に加入していることが前提条件となります。

【傷病手当金の受給要件】

以下の(1)~(4)のいずれにも該当する方が対象となります。

(1)業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

(2)仕事に就くことができないこと

(3)連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

(4)休業した期間について給与の支払いがないこと

ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。

傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、連続する3日間の待期を経て、休業4日目から支給対象となります。

新型コロナウイルス感染症による傷病手当金について

新型コロナウイルス感染症に関する傷病手当金の対象となる方は、原則として以下の通りです。

・新型コロナウイルス感染症「陽性」の方

・新型コロナウイルス感染症「陰性」であるが、発熱等の症状がある方

※「陰性」で症状のない方は、濃厚接触者であっても対象になりません。

2022年8月9日に厚生労働省より発出された『「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」の改訂について』に基づき、傷病手当金の取扱いは以下のとおり変更されています。

新型コロナウイルス感染症の急激な感染拡大を踏まえ、令和4年8月9日以降に申請を受け付けたものについて、当面の間、新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給における臨時的な取扱いとして、以下の運用とする。

・ 傷病手当金の支給申請に際し、医師の意見書の添付は不要とし、事業主からの当該期間、被保険者が療養のため労務に服さなかった旨を証明する書類を添付すること等により、保険者において労務不能と認められる場合、傷病手当金を支給する扱いとすること。

・ Q4、Q5、Q11、Q14 及びQ15 にかかわらず、医療機関への受診を行わず、医師の意見書を添付できない場合であっても、支給申請書にその旨を記載することは不要であること。

厚生労働省保険局保険課「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」の改訂について より一部抜粋

以上にあるとおり、当面の間は、医師の意見書の添付は不要とされ、事業主による労務不能の証明があれば申請が可能となります。

協会けんぽにおいては傷病手当金の請求期間が14日未満の場合、傷病手当金支給申請書(2ページ目 被保険者記入用)の申請内容(3)の「発病時の状況の欄」に発症年月日、発症時の症状等を記入することで、担当医師の証明及び公的な通知書等の添付は不要とされています。(健保組合においては加入する健保組合においてご確認ください。)

記載欄はかなり小さいですが、以下の記入例を参考に、簡潔に記入してください。

【記入例】(発病時の状況の欄)

発症年月日:令和4年7月15日 7/15より38.0℃の発熱、せき、強いだるさ、息苦しさなどの自覚症状があった。

出所:全国健康保険協会茨城支部HP

ただし、申請者の請求期間が14日以上の場合には、症状、経過等を日ごと詳細に記載した「療養状況申立書(新型コロナウイルス感染症 提出用)」の添付が必要になります。場合によっては公的な通知書等の提出が求められることもあります。

【公的な通知書一例】

・ My HER―SYSからプリントアウトした「療養証明書」

・ 医療機関が発行した「PCR検査の結果通知」「抗原検査結果通知」写し

・ 任意でPCR検査・抗原検査を行った場合、検査機関より交付された陽性の検査結果通知書写し   など


傷病手当金は、支給開始日から1年6か月となります。2021年12月31日までは暦での通算期間ですが、2022年1月1日から支給期間でみて1年6か月と改正されます

支給額は、支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額の平均額÷30日×(2/3)です。

傷病手当金は一定の要件に該当すれば、退職後も引き続き支給を受けることができます。休職期間の満了によってやむを得ず退職となる場合、引き続き傷病手当金を受けられるか確認しましょう。

なお、新型コロナに関しては、国民健康保険の加入者であっても、傷病手当金が受けられる場合があります。新型コロナに感染し、または発熱等の症状があり、感染が疑われるため会社等を休み、事業主から給与等の支払が受けられない場合、特例的な措置として申請が認められています。国保の場合は、お住まいの国民健康保険窓口に確認ください。

まとめ

新型コロナウイルス感染症にかかった場合、業務に起因する可能性が高いものであるかどうか、そうでない場合は健康保険の被保険者で傷病手当金を受けられるかどうか確認しましょう。

新型コロナに関しては、国民健康保険の被保険者も特例的な措置が取られています。

こういうときこそ、社会保障制度におけるセーフティーネットを活用するときです。

特に医療や介護の現場で働く方、また小売業の販売業務など多数の顧客と近接して働く方などは感染リスクが高いので、労災保険については労働基準監督署へ相談をしていただければと思います。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、エッセイスト。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに日経styleやダイヤモンド・オンライン等の経済メディア、専門誌に多数寄稿。

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