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転職や起業するときに気をつけたい競業避止義務とは?

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長い職業人生においては、転職をしたり、場合によっては起業や独立をしたりすることもあるでしょう。

むしろ、これからは一生一社に勤め上げるワークスタイルの方が、レアになってくるのではないでしょうか。

そうしたとき、これまで培ってきた職業経験やスキルなどキャリアを活かしたいと思うのは、自然なことだと思います。

ただ、ここで気を付けたいのが「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」に関することです。

競業避止義務とは?

競業避止義務という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、勤務先と事業内容が競合するような会社に就職したり、また競合する事業を自ら立ち上げたりするなどして、勤務先の事業と競業行為をしてはいけない義務のことを言います。

これは、会社の利益が損なわれるリスクを防ぐために重要なものとされており、入社や退職時に会社から誓約書や契約書を求められることもあります。

最近では、副業・兼業を認める企業も増えてきています。

在職中の競業行為については、仮に就業規則の規定や誓約書がなかったとしても、信義則上の義務を負うものとされています。ですから、副業・兼業を行う場合、競業避止義務規定に抵触しないように十分に注意しなければなりません。

競業避止義務の有効性を判断する6つのポイント

退職後に、競業避止義務があるから一切の同業はNGとなってしまうと、さすがに厳しいと感じる人も多いはずです。

そもそも、私たちには職業選択の自由があります。

 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

日本国憲法-第22条第1項

職業を自由に選択する際に、これまでと同じ業界で転職する、というのは十分にあり得る話です。

退職後も会社が競業避止義務を課すためには、基本的に退職時に契約書や誓約書等で本人との同意・合意が成立している必要があります(ただし、「営業秘密」を不正使用した競業行為は、契約上の根拠がなくとも制限が可能となる場合があります)。

実際に、これまで競業避止義務契約の有効性が争われた裁判が幾つもあります。

こうした裁判例から、競業避止義務の有効性を判断する基準として以下6つのポイントが挙げられます。

有効性における判断基準のポイント

(1)守るべき企業の利益があるかどうか

(2)従業員の地位(守るべき利益に関係していた業務を行っているか)

(3)地域的な限定があるか

(4)競業避止義務の存続期間

(5)禁止される競業行為の範囲について必要な制限がかけられているか

(6)代償措置が講じられているか

出所:経済産業省『競業避止義務契約の有効性について』より抜粋

ちょっと難しい言葉が並んでいますが、こうしたポイントをクリアできる対象者は、それほど多いとは言えないでしょう。

たとえば、会社が守るべき利益に関係するような業務とは一切関わりのない一般社員で、給与も特に高いとは言えないような場合、そもそも競業避止義務契約を交わしていたところで、有効になるとは考えにくいものです。

逆に、ベンチャー企業等で経営参画していたような立場で、相当優遇された待遇を受けてきて、限定された地域や期間が設けられた競業避止義務契約の場合は、有効性が高いと考えられます。

実際にあった裁判例として、家電量販店を全国展開しているX社が、退職日翌日からライバル会社で働くことになった元従業員Yに対して、競業避止に基づく損害賠償を求めて裁判所に提訴した事案があります。この従業員はX社在職中、地区部長・店長を歴任しており、知識やノウハウ、経験を十分に有していました。こうした地位にあった従業員に対しては、競業避止義務を課すことは不合理ではないとして退職金半額及び賃金1か月相当分の請求が認められています。

あくまでもケースバイケースなので一概には言えませんが、競業避止義務については、退職時に留意したいポイントの一つです。

退職時に競業避止義務契約を求められる際は、内容を確認しましょう。必ずしも同意しなければならないものではありません。

なお、退職時には秘密保持誓約書の提出を求められることは珍しくありません。

この中に、競業避止義務条項が含まれていることもあるので、自分が署名をする書類は、きちんと内容を理解しておくことが大切です。


競業避止義務に関しては、日経ARIAに連載中『シングルが考える「定年後の私」 キャリアとお金の相談室』の中でも書いていますので、ご興味のある方はこちらもぜひご覧ください。

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執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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