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転勤による女性キャリアへの影響とは

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新型コロナウイルスによるパンデミックで、働き方が大きく見直されることになった点はポジティブに捉えることができます。これには、デジタル技術の進化による影響も大きいところでしょう。

リモートワークをはじめ、「転勤」を見直し始める企業も出てきています。

NTTは、コロナ収束後もリモートワークを原則とし、転勤や単身赴任制度を廃止することを発表しました。住職接近の働き方を可能とするため、2022年度には現在の4倍にあたる260拠点以上のサテライトオフィスを設ける計画を明らかにしています。

企業の命令で転居を伴う人事異動が行われる転勤は、ジョブローテーションによってキャリアを積ませ人材育成をすることなどを目的に運用されてきました。もちろん、広域に事業所展開している企業では、事業展開への対応という組織側の都合もあるでしょう。これは、日本型雇用システムの特徴の一つでもあります。

ちなみに、ある調査*では、2019年1年間に転勤を経験した20歳から59歳までの会社員(正社員)は約67万人おり、そのうち家族帯同の転勤は約25万人、単身赴任の転勤は約43万人でした。属性別にみると、20代の男性が多く、人材育成効果を期待して若手を中心に行っていることがわかります。

リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」(2020年11月版)

女性の活躍を阻む転勤問題

転勤は人事異動のひとつの形態であって、就業規則に規定することで、包括的に転勤命令ができるものとされています。しかし、当事者らの生活設計に大きな影響を与えることは言うまでもありません。

そしてこの転勤制度が、女性のキャリアを阻む一因になってきたと考えられます。

配偶者の転勤によって、仕事を辞めた女性がこれまでどれだけ多くいるでしょうか。身の回りにも、職場を去った優秀な女性たちは数えきれません。ひと昔前は、それが当たり前でした。

子どもの教育など様々な理由で単身赴任を選ぶと、一気にワンオペ育児がのしかかってきます。それも就業継続を困難にする理由のひとつです。

そして今も、

「キャリアの展望が見えない」

「迷惑がかかるかもしれないから、要職を引き受けられない」

「正社員の仕事は難しい」

そんな風に、配偶者がいつ転勤になるかわからないことから、キャリアを手控えようとする女性たちの声を耳にします。

さらには、「パートナーの転勤ひとつで自ら築いたキャリアを失うくらいなら、一生懸命やっても無駄になる」という学生の声までも。

最初から、主体的に自分のキャリアに向き合おうとすることに臆病になっている学生の声を聞くと、切なくなります。

せっかくの努力が無駄になるくらいなら……そんな風に考える気持ちもわからない訳ではありません。

でも、就職する前から、自分のキャリアに向き合えないことは、残念でなりません。

こうした日本型雇用システムによって、女性の働き方や生き方が左右されてきた状況は、もう止めにすべきです。

これは転勤に限った話ではなく、いつか出産することを想定して、仕事と家庭の両立について心配する女性たちも同様です。しかも、こうした不安は、結婚する前から、いや恋人と出会う前から続いているのです。

確かに、育児休業制度は整ってきたことにより、働き続けられる環境が整ってきました。それは意義のあることだと思っていますし、私自身も雇用環境面の改善に力を尽くしてきました。

ただ、どこか女性ありきの制度になっていて、育児・家事は女性が主体的に行うものだという役割分担意識はそのままとなっているように感じます。

だから、悩んでしまう気持ちはよくわかるのです。予防線を張りたくなる気持ちも。

でも、よからぬ未来を想定して、今の自分の行動を制限してしまうのは、あまりにもったいないことではないでしょうか。

自分には何もできないと思わないこと

働く女性たち、これから社会に出て働こうとする女性たちに、伝えたいことがあります。それは、どうか自分の可能性の芽を摘み取らないでほしい、ということ。

希望はあります。

現に、日本を代表する大手企業が転勤制度の廃止、見直しを続々と発表しています。

デジタル技術の進化によって、リモートワークも可能になりつつあります。

働く時間も柔軟に、裁量の幅が広がっています。

フリーランスとして働く選択肢も出てきています。

働き方改革を下支えする法律改正も行われてきています。

私たちの働き方は、一歩ずつ着実に、柔軟で多様になってきています。少し前までは不可能だと思われたことが、実現できる可能性が広がっています。

そのことにもっと目を向けて欲しいのです。

今の職場が難しければ、別の場所へ行く選択肢もあるでしょう。雇用ばかりでなく、自分で切り拓く道もあります。

周りが変わらなければ、自分から変わればいいのです。

自分には何もできないと思わないことです。

作家のアリス・ウォーカーは、「多くの場合、人が諦めてしまうのは、自分に何も力がないと思ってしまうことだ」と言っています。 

The most common way people give up their power is by thinking they don’t have any.

― Alice Walker

気負うことなく、ゆっくりで構いません。自分の内側にある力を信じて、一歩を踏み出してみませんか。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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