働き方

男女間における賃金格差、開示義務でどう変わる?

働き方

男女間の賃金格差は、いつになったら解消されるのでしょうか。

5月20日に開かれた「新しい資本主義実現会議」において、岸田首相が301人以上の企業に対して、男女間の賃金格差の開示を義務付ける方向性を示しました。

今夏の施行を目指すとのことですが、これを足掛かりにもっと踏み込んで格差解消が進むことを切望します。


日本において、性別による賃金格差は明らかに存在しています。

まず、国際比較で見てみましょう。

OECD(経済協力開発機構)の男女間賃金格差(Gender wage gap)によると、2020年の数値ではOECD諸国平均が11.6%であるのに対し、韓国(31.5%)、イスラエル(22.7%)にいで、日本(22.5%)は3番目に男女間の賃金格差が大きい国となっています(男性所得の中央値を 100 とした場合の比率(%)によって表したもの、フルタイム雇用者の数値)。

出所:OECD「Gender wage gap Employees, Percentage, 2020 or latest available

国内に目を転じ、厚生労働省による男女別の賃金推移をみると、男性 33万8800円、女性 25万1800円、男女間賃金格差(男=100)は、74.3 となっています。2002年の66.5 と比べれば、その差は徐々に縮まっているものの、依然として大きいと言わざるを得ません。

出所:厚生労働省「令和2年 賃金構造基本統計調査」より「性別賃金の推移」

海外では、企業に対して男女別賃金の開示ルールを定めている国も少なくありません。

フランスでは従業員50人以上の企業に対し、男女の賃金格差に関する指標とそれを解消するために実施する措置を自社ウェブサイトで義務付けています。イギリスでは、従業員250人超の企業等に男女間の給与差の詳細(時間当たり賃金や賞与の格差等)を自社ウェブサイトと政府指定サイトに公表することを義務付けています。

日本では、労働基準法において、男女同一賃金の原則を規定しています。

(男女同一賃金の原則)

使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取り扱いをしてはならない。

労働基準法 第4条

こうした規定は法律上あるものの、賃金制度の在り方については、法的な介入はなされていません。最低賃金をクリアしていれば、企業ごとに定められた基準で支給することが問題とはなりません。


なぜ、日本では男女間で顕著な賃金格差が見られるのでしょうか。

男女間の賃金格差が生じる要因として、非正規労働者が男性と比べ女性の方が多いことや管理職比率が女性は低いこと、賃金水準の低い職種に女性労働者が多いことなど様々な問題が考えられます。女性に対する統計的差別もあるでしょう。

しかし、もっと根本的な理由は、戦後発展した「日本型雇用システム」に起因するところが大きいと考えます。

そう強く感じるようになったのは、人事労務管理の仕事に携わるようになってからです。

それ以前は、ジェンダーに基づく偏見や不平等が日本ではひどく蔓延っていることが大きいと考えていました。もちろん、それもあるでしょう。

ただ、男女間の賃金格差は、戦後の高度経済成長期と共に発展した長期雇用で無制限に働くことをデフォルトとする男性正社員を中心とした雇用モデルが深く関わっていると感じます。

男性は、転勤を含め働く場所も時間も無制限にコミットすることが求められ、そうした状況に耐える見返りに、安定した雇用と年功的賃金、引退時には退職金、さらには老後生活を支える年金……という数々のメリットが与えられてきました。

そのような働き方を可能とするためには、女性が家事・育児という役割分担を担わざるを得なくなります。つまり、男性がワーク、女性がライフを主体とした分業システムです。

そのため、男性が生活を成り立たせるための生活給的なものが、扶養家族に応じて給与にプラスされていきました。

働くうえで、女性にとって大きな壁となったのは、出産です。そもそも、出産後の雇用継続は想定されていなかったので、「寿退社」という言葉があったくらい、かつては結婚を理由に退職するのは自然なことでした。

しかし、子育てが一段落して再び働きたいと思っても、正社員としての仕事はなかなかありません。あったとしても、無制限な働き方は難しい。だから、両立するためにパートタイマーという働き方に自然と目が向いてしまうのです。

そうなると、最低賃金に近い低い時給となってしまうことが往々にして起こります。

それでも、「扶養に入れば税金も社会保険もお得」という謳い文句で、どこか納得させられるところがあったのかもしれません。そうした価値観を是とする教育や、税・社会保障制度が築かれてきた経緯があります。

しかし、今や(というかだいぶ前から)共働きが主流の中で、片働きモデルで考えられていた雇用慣行をそのままとするのはナンセンスです。非婚者も増えていますし、ジェンダーレスの時代にあって、性別役割意識に基づくアンコンシャス・バイアスにも留意すべきでしょう。

「早急に女性活躍推進法の制度改正を実施し、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を開示することを義務化する」と述べた岸田首相。これに加え、正社員・非正社員それぞれにおける賃金格差の開示も求める考えです。

現在、女性活躍推進法において、常時労働者数101人以上の企業に、一般事業主行動計画の策定及び届出が義務付けられています。そして「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」から1~2項目以上選んで公表することになっています。男女賃金の格差はこうした枠組みにおいて、開示が必須な項目として盛り込まれるようです。


企業における男女間の賃金格差を可視化することは、大きな意義があると考えます。

格差が大きいということは、女性が能力を発揮できる雇用環境にないと言っているようなものです。生産性の低い業務に女性が多く配置されている可能性もありますし、管理職が少ない(いたとしても上級ポジションにない)という要因かもしれません。男女の賃金格差の大きい企業では人材を有効に活用できていないと考えられ、企業価値にも影響を与えることになるでしょう。

近年は、女性活躍に関する情報が投資の判断材料としても使われています。

政府は男女の賃金格差について、上場企業などが提出する有価証券報告書にも記載を義務付ける方針で、早ければ2023年から適用される可能性があります。

賃金自体が伸び悩む中、こうした施策がどこまで功を奏するか。格差解消が進むことを期待しつつ、海外のようにジョブ型ではない日本において、決して一筋縄ではいかないであろうことも想像に難くありません。

それでも、男女間の賃金格差の是正は、日本にとって重要な課題のひとつです。

執筆:佐佐木 由美子(社会保険労務士)

タイトルとURLをコピーしました