日本では、定年まで組織に属して働く人は多いものです。
しかし、60代に入り定年を迎えると、これまでの比較的固定化されている働き方から、多様な選択肢が広がります。
フルタイムを続ける人もいれば、働き方を調整する人、年金を受け取りながら働く人もいます。もう仕事からは完全に引退する、という人まで様々です。
ただ60歳以降も働き続ける人は、もう特別な存在ではありません。
生活のため、やりがいのため、社会とのつながりのため。
理由は人それぞれですが、「いつまで、どのくらい働くか」は、これからの人生を左右するテーマの一つです。
60代の働き方を考えるうえで、理解しておきたい制度があります。
それは、「在職老齢年金制度」です。
在職老齢年金とは?
「在職老齢年金」とは 、働きながら年金を受給する高齢者について、受給されている老齢厚生年金の「基本月額」と「総報酬月額相当額」に応じて、年金の支給額を調整する仕組みをいいます。
よく「給与と年金を合わせて」と文字数などの関係で簡易的に表現されることが多いですが、単純にその月の給与を指しているわけではありません。
賃金や給与という表現は、厳密にはその月の「標準報酬月額」と「その月以前1年間の標準賞与額の合計の12分の1」を足した額(=総報酬月額相当額)なるので、用語の意味を正しく理解しておくことが大切です。
【メモ】用語の意味をチェック
基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額
総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
そして、現在(令和8年3月末まで)は、「基本月額」と「総報酬月額相当額」との合計が51万円以下の場合は、年金が減額されることはありません。
令和7年度の年金制度改正法に基づき、令和8(2026)年4月から、年金が減額になる基準額(支給停止調整額)が月51万円から「65万円」に引き上げられることになりました。
この基準額は、毎年見直されます。
令和8年度から大きく引き上げられることになった背景には、寿命が延びる中で、働き続けることを希望する高齢者の活躍を後押しすることもありますが、少子化による働き手の現象を補うこともあります。
たとえば、基本月額が10万円で総報酬月額相当額が46万円の場合、現行では2万5千円が支給停止となりますが、令和8年4月からは基準額である65万円を下回るため、満額が支給されることになります。

年金のうち、調整の対象となるのは「老齢厚生年金」の部分です。
支給停止される額の計算は、月額単位で行われ、基準額を超過した場合に調整(支給停止)されるのは年金であって給与には影響ありません。
実際に自分のケースで考える際には、自分の老齢厚生年金の月額と、その月の標準報酬月額およびその月以前1年間の標準賞与額を理解しておくことが大事になってきます。
標準賞与額の12分の1の額が入ってくる、というところはポイントで、特に賞与の額が大きかったり変動幅があったりする場合は、留意したい点といえるでしょう。
60代の働き方を考えるとき、収入を最大化することが目的ではない人は多いはず。
自分自身の体力や家族との時間、介護、ひとり時間……
人生に残された時間は、無限にあるわけではありません。
大切なことはいろいろとありますし、どこに重点を置きたいかは、個人ごとに違ってくるものです。
それらと仕事のバランスを考えるとき、在職老齢年金制度もひとつの判断目安となってくれるかもしれません。
そもそも「いつから年金を受け取り始めるか」ということも、考えておきたい重要なこと。
これまでの在職老齢年金は、「働くと年金が減る」という印象を持たれがちでした。
その結果、働く時間を抑えたり、収入を調整したりする人も少なくありませんでした。
基準額の引き上げは、働きたい人が必要以上にブレーキをかけなくて済む、そうした方向の調整ともいえます。
制度を知らないまま選ぶのと、知ったうえで選ぶのとでは、納得感が違ってきます。
自分にとって無理のない働き方を選ぶために、こうした制度を一度立ち止まって眺めてみる。
これからの時代の大切な準備といえるでしょう。
今回のテーマに関連する内容を、Udemyで学ぶオンラインコース「定年前後の働き方講座」でも整理しています。
必要なときに、参考にしていただければと思います。
また、拙著「定年前後の働き方大全100」で定年前後の働き方と社会保険についての全体像についてまとめていますので、よろしければこちらもご参考にしてください。


