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2歳未満の育児時短勤務者への給付金について

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

少子化対策関連法案が2月16日に閣議決定されました。2023年に掲げた「次元の異なる少子化対策」の実行に向けて、今の通常国会で成立を目指すことになりますが、法案のひとつに2歳未満の子がいる時短勤務者への給付金の支給があります。

このエントリでは、2歳未満の子がいる育児時短勤務者への給付金に関する個人的な意見について述べます。

育児時短勤務へのニーズは?

子育てと仕事の両立は働き手にとって重要なテーマであり、社会全体で支えていく課題の一つであることは言うまでもありません。

近年、この分野における法改正は急ピッチで進められており、その一つとして浮上したのが「育児時短就業給付(仮称)」の創設です(以下、「育児時短就業給付」といいます)。

これは、一定時間以上の短時間勤務をした場合に、手取りが変わることなく育児・家事を分担できるよう、子どもが2歳未満の期間に、時短勤務を選択したことに伴う賃金の低下を補い、時短勤務の活用を促すための給付です(第183回雇用保険部会資料より一部抜粋)。

男女を対象としていますが、育児のため時短勤務ニーズは、女性の方が圧倒的に高いことはこれまでの調査結果でも示されています。

「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(労働者調査)によれば、利用することができれば仕事を続けられたと思う支援・サービスをみると、離職前に正社員であった女性のうち、 45.2%が「1日の勤務時間を短くする制度(短時間勤務制度)」を挙げています。

同調査で、末子が2歳になるまでにおける希望する両立のあり方を男女別にみると、以下のとおり男女で大きくニーズが異なることがわかります。

出所: 日本能率協会総合研究所「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」労働力調査(令和4年度厚生労働省委託事業)

女性は「育児のための短時間勤務制度を利用して働く」が38.8%に対し、男性は「フルタイムで働き、できるだけ残業をしないようにする」が39.1%でもっとも回答割合が高く、次いで「残業をしながらフルタイムで働く」が 28.6%となっています。

男性で「育児のための短時間勤務制度を利用して働く」割合は、わずか2.2%に過ぎません。

時短勤務者への給付金制度を創設して収入面による不安をカバーしたとしても、そもそもニーズが低いため、それによって男性の利用割合が大きく増えるとは思えません。

育児時短就業給付は男女を対象にしたものと言いつつも、女性のための施策と受け取られても致し方ないところはあります。

しかし、これは本当に女性に寄り添った施策と言えるのでしょうか。

個人的には、この施策が(1)男女の賃金格差を助長するのではないか、(2)育児時短勤務者と業務をカバーする従業員との分断を生むのではないか、(3)女性のキャリア形成に不利になるのではないか、という大きく3つの懸念を感じています。

時短勤務者の業務をカバーする従業員については、企業が業務応援手当等を支給することを国は推奨しており、2024年1月から両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」が新設されました。これは中小企業を対象としたものです。

「こうした助成金を利用すればいいではないか」という意見もあるでしょう。

もちろん、従業員にとっては手当がないより、あった方がいいはずです。

むしろ、一部の業務を代替する従業員に対して何の手当や配慮もなく、時短する本人にのみ給付を行えば、職場での軋轢を生むことになりかねません。

ただ、手当以外にも目配せすべきことは多くあり、それらに加えて新しい育児時短就業給付の申請など、リソースの少ない中小企業にとって、決してハードルの低いものではありません。

時短勤務となれば、ノーワーク・ノーペイの原則から賃金がカットされることはやむを得ず、時短勤務の利用者が女性に偏れば、さらに男女賃金格差を助長することになります。それは男女の管理職比率にも影響を与えます。

これまでの固定的かつ長時間労働を標準モデルとして、それができない人を支援するのではなく、標準モデルとされてきた働き方そのものを抜本的に見直すことの方がよほど重要ではないでしょうか。

そこにメスを入れず、育児時短就業給付を採り入れても、本来の狙いとする目的にアプローチできるのか、大変疑問が残ります。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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