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上野リチのデザイン・ファンタジー

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先日、三菱一号館美術館で開催中の「上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展」に行ってきました。

開催に先駆けて、上野リチ展を取り上げている記事や作品の一部を見て、ぜひ行ってみたいと思いました。その理由は、ふたつあります。

ひとつは、植物をモチーフにした優しい作風のテキスタイルに、ウィリアム・モリスを想起させる「何か」を感じたから。

もうひとつは、19世紀末ウィーンに生まれて日本に活動の場を広げたという、一人の女性としての生き方に興味を持ったから。

さらに言えば、三菱一号館美術館はお気に入りの美術館のひとつでもあるので、素敵な時間が過ごせそうな気がしました。(美術館は作品を見る場所ではありますが、建築物全体を楽しむのも醍醐味のひとつだと感じます。)

1894年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元した建物が美術館に

その予感は、見事的中。「ファンタジー」を存分に感じ取ることができた展覧会でした。

上野リチについて

上野リチ・リックス(本名:Felice Rix 1893-1967)は、1893年にオーストリアのウィーンに生まれ、ウィーン分離派の中心人物であった建築家のヨーゼフ・ホフマンに教えを受けます。卒業後はウィーン工房においてテキスタイルデザインなどを手掛けました。

リチが32歳のとき、ホフマンの建築設計事務所に在籍していた京都出身の建築家・上野伊三郎と出会い結婚。その翌年、京都に渡り、ウィーンと京都を行き来しながら活動を続けます。しかし、次第に戦局が激化し、リチは1930年にウィーン工房を退職。その後は、京都を拠点に様々な活動を繰り広げます。

テキスタイルだけでなく、アクセサリーや身の回りの小物類など精力的に制作し、夫婦二人で開設した建築事務所では、協働して個人住宅や商業店舗の設計・内装デザインを手がけました。加えて、第二次世界大戦後には、教育者として後進の指導にもあたっています。

リチが教えを受けたホフマンは、ウィリアム・モリス(William Morris:1834-1896)のアーツ&クラフト運動にも大いなる影響を受けています。ウィーン工房では、内装デザインや家具、ファブリック、服飾品など生活にまつわる様々な作品が制作されました。本展においても、ウィーン工房で手掛けられてリチ以外の作品が数々展示されています。

今回は、上野リチのデザイン世界の全貌を展観する世界初の回顧展、ということで、京都国立近代美術館に続き、東京では2022年5月15日まで開催されています。

ウィリアム・モリスとリチ

今回の展覧会で、初めて上野リチのことを知りました。私のような初心者にとっては、幅広い作品に触れることができ、入門的な役割を果たしてくれます。

植物をモチーフとしたデザインに、一瞬モリスを連想させるものがありました。しかし、実際にリチの作品を間近に見ると、モリスとは全く違うものでした。

モリスの装飾的なデザインは、洗練された対称性と反復の美しいスタイルに特徴があります。一方、リチの場合、余白を巧みに活かし、優美な曲線が風に揺れるように、時にか弱く儚げに映るかと思えば、チャーミングで愛嬌を感じさせる……人間らしい、と言うか、温もりのある印象を受けました。

それこそが、ファンタジーなのかもしれません。

そして、ウィーンと京都をつなぐように、アール・デコと日本画を思わせるような「和」テイストが融合する、独自の作風が生み出されています。

配色も絶妙で、センスの良さを感じずにはいられません。同じデザインでも、色使いによって全く雰囲気が変わってしまうものですが、それぞれの色の美しさを引き出し、見事に調和させています。

モリスとリチ。全く違う作風ながら、どこか似通ったものを感じてしまうのは、植物的なモチーフばかりでなく、日常の生活に根差しながら、美しいものを採り入れようとする心豊かな息遣いを感じるからかもしれません。


執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、執筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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