最近、仕事上でもプライベートにおいても、40代後半~50代の方と話をするときによく出てくる話題といえば、年金に関すること。
特に「いつからもらい始めるのがいいか?」といったことを、「社労士としてどう思うか?」と意見を求められたりします。
その中で、「年金は、早くもらった方が安心なのではないか」という意見は根強くあります。
将来の生活費、健康への不安、制度が変わるかもしれないという心配から「とりあえず早く受け取っておいた方がいい」と考えるのは、自然なことかもしれません。
ただし、年金は一度受給を始めると、原則として後から変更できない制度です。
だからこそ、「安心そうだから」という感覚だけでなく、制度の仕組みを理解したうえで判断することが大切になります。
年金の受給開始時期の基本
老齢年金は、原則として65歳から受給が始まります。
ただし、本人の希望により次の選択が可能です。
繰上げ受給:60歳〜64歳で受け取る
繰下げ受給:66歳〜75歳で受け取る
つまり、年金は60歳から75歳までの間で、「いつからもらうか」を自分で選べる制度になっています。
繰上げ受給を選ぶと、年金は1か月早めるごとに0.4%(昭和37年4月1日以前生まれの方の減額率は0.5%)ずつ減額されます。
たとえば、65歳より5年早い60歳0か月から受け取ると、減額率は24%です。
ここで重要なのは、
- 減額された年金額は一生続く
- 原則として、後から取り消すことはできない
ということ。
繰上げ受給は、早くもらえる代わりに、毎月の金額が少なくなる、という仕組みです。
「早くもらえる=得」という単純な話ではないことは、押さえておきたいポイントです。
一方、繰下げ受給を選ぶと、年金は1か月遅らせるごとに0.7%ずつ増額されます。
70歳まで繰下げると42%増、75歳まで繰下げると84%増になります。
ただし、繰下げ受給にも注意したい点があります。
それは、
- 受給開始までの生活費をどう確保するか
- 税金や社会保険料が増える可能性も
- 必ずしもすべての人に有利とは限らない
ということ。
繰下げは「長生きすれば有利になりやすい」選択肢ですが、万能ではありません。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰下げできます!
老齢年金には、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2つがあります。
繰下げ受給、この2つを必ず同時に行わなければならないわけではありません。
たとえば、
- 老齢基礎年金は65歳から受給し
- 老齢厚生年金だけを繰下げる
といった選択(その逆)も可能です。
生活費は確保しつつ、将来の年金額を少しでも増やしたい場合には、一部だけ繰下げるという考え方もあります。繰下げ=すべてまとめて、ではない点は、知っておきたいポイントです。
「早くもらった方が安心」が当てはまる人も
繰上げ受給が現実的な選択になる人も確かにいます。
それは、以下のような場合。
- 収入や貯蓄が少なく、すぐに生活費が必要な場合
- 健康上の不安が強い場合
- 配偶者の年金や他の収入がほとんどない場合
一方で、働き続けられる見込みがある人や、一定の生活資金がある人にとっては、繰下げ受給が安心につながるケースもあります。
特に男性においては、「健康寿命」に関することと関連して、最近では「繰上げして受け取った年金を、投資など資産運用して増やしたい」といった意見をよく耳にするようになりました。
失われた30年から、景気が上向きになればなるほど、そうしたやり方を選択する人は増えていくのかもしれません。
大切なのは「自分にとっての安心」
「年金は早くもらった方が安心」という考え方は、間違いとは言いきれません。
ただし、それがすべての人に当てはまるわけでもありません。
繰上げが合う人、繰下げが合う人、65歳受給がちょうどいい人……
答えは一つではありません。
気を付けたいのは、「周囲に勧められたから」、「何となく不安だったから」、「損得勘定で決める」といったこと。
年金は、誰かの正解をそのまま当てはめられる制度ではありません。
自分の働き方や家族構成、ライフスタイルに合わせて使う制度です。
特に、60代の働き方(いつまで、どのように働くか)は大きなポイントといえるでしょう。
制度を理解し、自分の条件で考えることが、結果的にいちばんの安心につながります。
今回のテーマに関連する内容を、Udemy「定年前後の働き方講座」でも整理しています。
必要なときに、参考にしていただければと思います。

